チェロック!

 チェロという楽器は、長い間ロックの分野ではあまり大きな役割を負ってこなかった。ロックの歴史の中で、メンバーとして専任のチェロ奏者が居たバンドはごくわずかといえるだろう。オーケストラや弦楽四重奏を揃えていたバンド、たとえばELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)にはアンディ・クレイグやマイク・エドワードがいたし、プログレのエスペラントやサード・イヤー・バンドにもチェリストがいた。ちなみにサード・イヤー・バンドでチェロを弾いていたポール・バックマスターは、後にエルトンジョンのストリングス・アレンジなどポップスの編曲で知られるようになり、リチャード・ヒューソンの後継者と言われている。

 しかし、オーケストラ形式ではなく単にチェロ奏者がメンバーにいるバンドとなると皆目思い当たらない。唯一の例外と言えば、60年代から70年代の初頭にニューヨークで活躍した、ニューヨーク・ロック&ロール・アンサンブル(後にニューヨーク・ロック・アンサンブルに改名)だろう。クラシックの超名門、ジュリアード音楽院に在学していた幼なじみの2人のオーボエ奏者とルームメイトのチェリスト、ドリアン・ラドニスキィが結成したこのグループは、プログレ的なクラシカルロックではなく、アメリカンなロックとバロック/クラシックを混在させた不思議な世界を追求したバンドであった。
オーボエ奏者でリーダーのマイケル・ケイメンはキーボードを、もう一人のオーボエ奏者、マーティン・フルターマンはドラムを、ラドニスキィはベースを演奏し、リードギターのクリフトン・ニヴィソンとギター/ボーカルのブライアン・コリガンを加えて、通常はごくごく当たり前のロックを演奏していたのだ。ところが時折オーボエとチェロの完全なバロック・アンサンブル聞かせてくれたりして、非常に奇妙なバンドである。

 チェロを活かした曲がそれほど多いわけではないが、90年代に映画のサントラとしてもカヴァーされたこの曲は、ピースフルな名曲だ。(私見だが吉田拓郎の初期のシングル「自殺の詩」の印象的なイントロは、アレンジャーの故・加藤和彦氏がこの曲からパクッたに違いないとにらんでいる。暇な方は比較してみてください。)

 ちなみに、2003年に55才でこの世を去ってしまったリーダーのマイケル・ケイメンは、未来世紀ブラジル、X-Men、ダイ・ハード、007消されたライセンス、リーサル・ウェポンなどなど膨大な作品を手がけた、超メジャーな映画音楽家であり、デヴィッド・ボウイ、エアロ・スミス、メタリカ、布袋寅泰らとのコラボでも知られていた。また、もう一人のオーボエ奏者、マーティン・フルターマンもマーク・スノウと改名しTV音楽の世界で有名となる。誰もが聞いたことのある、あの「X-File」の恐ろしげなエコーサウンドは彼の作品だ。

 前置きが長くなったが、このように60年代、70年代、80年代を通じてロックの世界でチェロという楽器がメインでクローズアップされることはなかったのである。ところが、今世紀に入ってどうやら状況が変わってきたようだ。
 しかもプログレやクラシカル・ロックではなく、ヘビメタやポップ、ゴスロリからカントリーまで、今まで思いもしなかったロックのサブジャンルで、チェロを全面に押し出したサウンドが聴かれるようになってきた。
 以下にそんなバンドやアーチストをまとめてみた。

Linnea Olsson(リネア・オルソン)

チェロを弾きながら歌う?ってのにまず驚いた!
スエーデンのチェロ奏者兼シンガー。プログレ、イシルドゥス・バーネのサポートメンバーでそこから派生したPAINTBOXのフロントもつとめたが、今はソロらしい。ポップな曲が、ちょっと恐い感じで良い!

Jorane(ジョラーヌ)

チェロを弾きながら歌うソロ・スタイルは、こちらが先輩か?フレンチカナディアンのチェロシンガーソングライター。トーリ・エイモスのチェロ版と言われてるらしい!

The Piano Guys(ピアノガイズ)

Youtubeに、ピアノとチェロをベースに、さまざまな実験を加えた映像を遊び半分でアップしたら超有名になってしまったアメリカのオジサン5人組。ピアニスト、チェロ奏者、レコーディングエンジニア、映像専門家、ピアノショップオーナーの5人組。クラシックとロックのマッシュアップなど知的な作品が多い。チェロ奏者のスティーブン・シャープ・ネルソンを全面に押し出した作品も多い。大人の器用さですね。

2Cellos(ツーチェロズ)

今更説明するまでもないほど有名ですが。クロアチアのイケメン、クラシック・チェロ奏者2人が、マイケルジャクソンの 「スムーズ・クリミナル」をチェロでロック風に演奏して、Youtubeにアップしたら3週間で300万アクセスを記録して、突然エルトン・ジョンから電話が入り全てのレコード会社から契約を申し込まれたという嘘みたいな話。ついに来日も果たした。

人気あります!

Murder By Death(マーダー・バイ・デス)

インディアナ州ブルーミントン出身の5人組バンド。サラ・バリエ(Sarah Balliet)のチェロを中心に、ゴシック風味のオルタナカントリー・サウンドという変わった音楽を演奏する。

Apocalyptica(アポカリプティカ)

全員がシベリウス音楽院卒のチェリスト3人とドラマーというフィンランドのヘヴィメタバンド。もともとはヘビメタをチェロでカヴァーしていたが、最近はアコースティック風の曲も多いようだ。この曲はボーカルにドイツパンクの女王ニナ・ハーゲンを迎えてのオリジナル・コラボ!

Melo-M(メリエム)

ラトヴィア出身のチェロ3人組。韓流アイドル系の安いルックスからしても、亜流のそしりを免れないが、ファイナル・カウントダウンや、ゴーストバスターズなど解りやすいレパートリーが多い。

Rasputina(ラスプチナ)

ニューヨークの3人組。ヴィクトリア風のファッションとアートで総合芸術を目指す、一種のゴス系フリーク・オルタナバンド。音楽的だけでなく、ストーリーとファッションと一体なったパフォーマンスを目指しているようで、日本で言えばイッちゃた文服の生徒みたいな雰囲気?

Kevin ‘KO’ Olusola(ケヴィン・オルソラ)

この黒人チェリストが発信する、ヒップホップやジャズとクラシックを融合させた音楽は非常にユニーク。パーカッションは口で追加するヒューマンビートボックスも兼ねる。この曲は東海岸のシンガーソングライター、アントネッタ・コスタ(Antoniette Costa)とのコラボ作品。