哀愁溢れるTV映画テーマの傑作をリメイク

FUJIFILMの化粧品、アスタリフトの新しい美容液「ディステニー」のCMが最近頻繁に流されてますね。(2012年時点の話です。)
「肌時間旅行へ」というコンセプトで、松田聖子と小泉今日子が奇妙なCGのタイムマシン(たぶん)に乗っているあれです。

CGの出来の方はともかくも、使われている曲が非常に印象的なのでやはり気になります。CMで実際に使われているのは、アート・オブ・ノイズ、(再結成以前)最後のアルバムとなった「Below the Waste」に収められている「ロビンソン・クルーソー」(Robinson Crusoe)。90年代にジェット・ストリームのエンディングテーマとして同曲が使われていたこともあり、すっかり世間では、アートオブノイズのオリジナルだと思われている感があります・・・が、いくらなんでも懐かしいイタリア映画を思わせるこの名曲が、80年代の終わりに作られたというのは無理があるでしょう。

Art Of Noise 版

前のシリーズでは、ミッシェル・ルグランの「キャラバンの到着」(『ロシュフォールの恋人たち』より)をさりげなく使っていたアスタリフトのCMスタッフは、どうも音楽の選び方にはだいぶこだわりがあるようです。
「ロビンソン・クルーソー」もなかなかの名曲ですが、元々は1964年にフランスで作られた子供向けのTV番組(後に独、米、英でも放映)「The Adventures of Robinson Crusoe」のテーマ曲として作られたものでした。
作曲したのは、ジャン・ピエロ・レベルベリ (Gian Piero Reverberi)という人物。マカロニ・ウェスタン(最も有名なのは、兄であるフランコと共作した「皆殺しのジャンゴ」)やTV、映画など多くのサウンドトラックを手がけ、ビアニスト、プロデューサーとしても知られるイタリアの作曲家です。
 プログレファンには、むしろニュートロルスやレ・オルメにプロディーサーとしてかかわっていたあのレベルベリと言った方がなじみがあることでしょう。レ・オルメのアルバム「夜想曲」ではメンバーとしてクレジットされ、すばらしいピアノを披露しています。プログレの他、ルチオ・バッティスティやルイジ・テンコなどイタリアを代表するシンガー・ソングライターのプロデュースも手がけていますね。

また75年以降はプログレとイージリスニング、クラシックを融合させた独自の音楽を追究し、ソロ活動を行った後、79年にロンド・ヴェネツィアーノ(Rondò Veneziano chamber orchestra)というグループを結成し、今日まで膨大な作品を発表しています。

 この哀愁溢れる名曲をアート・オブ・ノイズで取り上げたのは、ノスタルジックなセンスがあるアン・ダドリーなのかもしれなせん。
 アート・オブ・ノイズは言うまでもなく、プロデューサーでバグルスやイエスのメンバーでもあったトレバー・ホーンが結成した覆面プロジェクト。イタリアの未来派から引用した名前が表すとおり、当時先端だったサンプリングシステムのフェアライトCMIを多用し、(彼のZTTレーベルのために)世間を驚かす新しい音を創造するためのチームであったと言えるでしょう。代表曲「Peter Gunn」は、60年代の探偵ドラマのテーマ曲(ヘンリー・マンシーニ)ですが、70年代初頭にはすでにシンセサイザーを使ったELPのバージョンがあるにもかかわらず、完全に新しい時代を感じさせるものでした。

ピーター・ガン

 しかし、ホーンがオーナーで、実際の労働者、アン・ダドリー&J.J.ジャック・リザック(ゲーリー・ランガン、ポール・モーリーもメンバー)という構造は、働かされる2人にとってはストレスだったようで、「二人が何日もかけて作った新しいサンプリングを、ホーンがふらっとやってきては、これいいね!と言って、他のプロデュース作品にあっさり使ってしまう・・」と言うような不満を、当時漏らしていたのを覚えています。
 まあ、そんなわけで結局2人は1987年にはトレヴァーの元を離れ、チャイナレ・コードと契約。自分たちのやりたかった方向性を目指すことになったのでした。サンプリング担当でエンジニアのJ.J.ジャック・リザックはともかく、アレンジャーでキーボードを実際に弾いていたアン・ダドリーと言う人は、ちゃんとしたクラシックの教育を受けた音楽家で、英国の王立音楽大学(Royal College of Music)を卒業しています(ちなみに弟はファービュラス・プードルスでヴァイオリンを弾いていたボビー・バレンチノ!)。
ホーンの元で、ABC、フランキーゴーズトゥハリウッド、マルコム・マクラレン、ポール・マッカートニーなどの仕事をしていたことは有名ですが、アート・オブ・ノイズ後に映画音楽に転身し、アカデミーを受賞した「フルモンティ」をはじめ多くの映画音楽を手がけていることは余り知られていませんよね。
 エドワード・ノートン主演の「アメリカン・ヒストリーX」の渋い音楽などを聴くと、この人がいかにクラシックベースの音楽家であるかを感じます。
 アート・オブ・ノイズで60年代の哀愁溢れるTV映画テーマ「ロビンソン・クルーソー」というのは、この人がいてこその選曲なのだなあ〜としみじみしてしまうのです。

聞き比べてみると、意外なほどオリジナルに手を加えていないのがわかります。

オリジナルTV映画「The Adventures of Robinson Crusoe」 サントラ


お兄さんのジャンフランコとジャン・ピエロ・レベルベリが共作した、邦題「皆殺しのジャンゴ」の挿入歌。この曲は後に2006年にソウルデュオ、ナールズ・バークレイ(Gnarls Barkley)がサンプルして「クレイジー」として大ヒットしたことでも知られています。
Gianfranco & Gian Piero Reverberi – Nel Cimitero Di Tucson (1968)

Gnarls Barkley – Crazy

レベルベリはイタリアのB級映画もいろいろやっています。これはモンドネタとしては結構知られた「毛皮のビーナス」のサントラ。哀愁だけじゃなくて、おしゃれ系もなかなかいいですね。
Gian Piero Reverberi – Malizie di Venere

これはレベルベリがソロに転向してからの作品!なんと「天国への階段」のイージーリスニング・バージョンです!
Gian Piero Reverberi – Stairway To Heaven

映画「The Adventures of Robinson Crusoe」のオリジナルサントラというのも発売されているようです。今入手可能かはちょっと微妙ですが。